EMC対策で筐体素材はどう選ぶ?金属と樹脂の違いを解説
電子機器のEMC対策では、基板や配線だけでなく、筐体の素材選びも重要です。特に金属筐体と樹脂筐体では、電磁波を遮る性質や重量、加工性、コストなどに違いがあります。
「ノイズを抑えるなら金属筐体を選べばよい」と考えがちですが、実際には機器の用途や周波数、開口部の大きさ、内部のノイズ源などによって適した構成は変わります。樹脂筐体でも、導電性材料やシールド処理を組み合わせることで対策できる場合があります。
この記事では、EMC対策の観点から金属筐体と樹脂筐体の違い、それぞれのメリットや注意点、素材を選ぶときの考え方を解説します。
筐体はEMC対策で重要な役割を持つ
電子機器の筐体は、内部部品を保護するだけでなく、電磁ノイズの出入りを抑える役割も持ちます。
基板やケーブルから発生したノイズが外部へ放射されると、周囲の機器へ影響する可能性があります。反対に、外部から飛来した電磁波が内部へ入り込み、誤動作の原因になることもあります。
導電性を持つ筐体で内部を囲むことで、こうした電磁波を反射・吸収し、ノイズの伝搬を抑えやすくなります。
ただし、筐体素材だけでEMC性能が決まるわけではありません。継ぎ目や開口部、コネクタ周辺の設計も大きく影響します。
金属筐体は電磁シールドに向いている
金属は導電性が高いため、電磁シールドに適した素材です。
アルミニウムや鋼板などを使って機器全体を囲むことで、内部で発生した電磁波が外部へ漏れるのを抑えたり、外部ノイズの侵入を防いだりする効果が期待できます。
また、筐体自体をグラウンドやシャーシへ適切に接続することで、ノイズ電流を逃がす経路として利用できる場合もあります。
一方で、金属筐体は樹脂より重くなりやすく、加工方法によっては製造コストも高くなります。
さらに、塗装や酸化皮膜があると、筐体同士の接触部で十分な導通が得られないことがあります。EMC対策では、単に金属を使うだけでなく、継ぎ目の導通まで確認する必要があります。
樹脂筐体は軽量で加工しやすい
樹脂筐体は、軽量で成形しやすく、複雑な形状にも対応しやすいという特徴があります。
携帯機器や家電など、重量やデザイン性を重視する製品では、樹脂が多く使われています。また、金属と比べて電気を通しにくいため、絶縁性が必要な部分にも適しています。
ただし、一般的な樹脂には高い導電性がないため、金属筐体のような電磁シールド効果は期待しにくくなります。
内部で高周波ノイズが多く発生する機器では、樹脂筐体だけでは放射ノイズを十分に抑えられないことがあります。
その場合は、筐体内面への導電塗装や金属メッキ、シールド材の追加などを検討します。
樹脂筐体でもシールド対策はできる
樹脂筐体を使う場合でも、追加処理によってEMC性能を高めることは可能です。
代表的なのが、筐体内側への導電性塗料の塗布です。導電性材料で表面を覆うことで、樹脂筐体にも導電層を形成できます。
金属メッキを施したり、金属箔やシールドケースを内部へ追加したりする方法もあります。
また、導電性フィラーを混ぜた樹脂材料を利用する方法もあります。
ただし、導電層を設けるだけでは十分ではありません。導電層をどこへ接続するのか、筐体の分割部分でも導通を確保できるかなど、電流の流れる経路まで考える必要があります。
開口部や継ぎ目からノイズが漏れることもある
EMC対策では、筐体そのものの素材だけでなく、開口部にも注意が必要です。
冷却用の通風口、表示部、スイッチ、コネクタなどの開口部が大きいと、そこから電磁波が漏れやすくなる場合があります。
特に高い周波数では、わずかな隙間でもシールド性能に影響することがあります。
金属筐体を使用していても、パネル同士の継ぎ目に大きな隙間があったり、導通が不十分だったりすると、期待したシールド効果を得られません。
必要に応じて導電性ガスケットを使用したり、開口部を小さく分割したりする対策も検討します。
筐体素材は用途とノイズ環境から選ぶ
金属と樹脂のどちらを選ぶべきかは、EMC性能だけで決めるものではありません。
まず、機器内部にどのようなノイズ源があるかを確認します。高速デジタル回路やスイッチング電源、モーターなどを搭載している場合は、放射ノイズへの対策が重要になります。
また、外部から強い電磁ノイズを受ける環境で使う装置では、イミュニティの観点からも筐体設計を検討する必要があります。
そのうえで、重量、強度、絶縁性、放熱性、加工性、コストなども含めて素材を選びます。
最初から一つの素材に決めるのではなく、必要な部分だけ金属シールドを追加するなど、複数の方法を組み合わせる考え方も有効です。
まとめ
金属筐体は導電性が高く、電磁波を遮るシールド対策に適しています。一方、樹脂筐体は軽量で加工しやすく、絶縁性やデザイン性を確保しやすいという特徴があります。
ただし、樹脂筐体でも導電塗装や金属メッキ、内部シールドなどを組み合わせれば、EMC性能を高められる場合があります。
また、金属筐体を使っていても、開口部や継ぎ目の設計が不十分であればノイズが漏れる可能性があります。
筐体素材だけで判断せず、内部のノイズ源、使用環境、開口部、接地方法などを含めて、機器全体でEMC対策を考えることが大切です。